葉酸含有酵母(Re-Natured Folic Acid S)とは何なのか?徹底的に調べてみた

葉酸サプリに関するページをいろいろ見ていると、葉酸含有酵母(Re-Natured Folic Acid)という言葉を度々見かけます。それらのページに書かれた説明を見ると、天然由来の食事性葉酸、すなわちポリグルタミン酸型の葉酸を酵母で分解して、吸収性の高いモノグルタミン酸型の葉酸に変換をしているということのようです(モノグルタミン酸型とポリグルタミン酸型の葉酸の違いを知りたい方は、リンク先の記事を参照)。

ただ、その説明だけ読んでも、イマイチしっくりきません。なんでかというと、厚生労働省などの公的機関による信頼性の高い葉酸に関する資料では、この葉酸含有酵母なる用語は登場せず、あくまで葉酸はモノグルタミン酸型とポリグルタミン酸型の大きく2種類があるということしか言及がされていないからです。

具体的に葉酸含有酵母(Re-Natured Folic Acid S)とは何なのか、という部分をもう少し掘り下げてみたいと考えたので、調べてみることにしました。

まず、ヒントになりそうなのは、下記のページ。
ミネラル・ビタミン・アミノ酸含有酵母/ミネラル・ビタミン含有乳酸菌|セティ株式会社
このセティという会社は、健康食品の原料や医薬品などの輸入を行っている会社のようです。上記のページを見ていくと、「Re-Natured(R) シリーズ:ビタミン含有酵母/植物濃縮物(Grow社製)」という表記や、「Re-Natured(R) Folic Acid S(葉酸含有 酵母)」という表記が確認できます。

Re-Natured(R)ということで、Rマークが付いているので、これは特定の会社の登録商標のようです。具体的にはGrow社の登録商標ということでしょう。この上記サイトによると、Grow社というのは、Andrew博士によって創立された会社で、30年以上続いている会社とのこと。

では、一旦Grow社について、詳しく調べてみようと思います。Grow Company,Incのページは下記。
Grow Company, Inc.
この公式ページのグロウ社の歴史に関する部分を訳します。


グロウ社は、アンドリュー・スザレイ(Andrew Szalay)によって1977年に設立された会社である。アンドリューは1946年にハンガリーのセゲド大学で薬学の学位を取った。セゲド大学は、ノーベル賞受賞者であるセント=ジェルジ・アルベルトが、ビタミンC(アスコルビン酸)の発見に繋がる研究を行った場所であり、そこでアンディ(グロウ社創業者アンドリューのこと)の栄養哲学が培われた。

天然の栄養素による予防の優位性について学んだ後、アンドリューは天然の食材を模した栄養素の商品群を出そうと試みた。彼はアメリカに移り住み、その後20年もの間、栄養学、植物抽出、薬用植物、ハーブの分野を網羅的に研究を行った。

アンディの生涯の夢は、自然の食物の実際の組成に近い構造を持った、サプリメントを作ることに成功することであった。タンパク質、炭水化物、脂質、バイオフラボノイド、食物繊維の複合体である糖タンパク質。その中にビタミンとミネラルを統合することによって、アンディは新たな類まれな栄養食品を開発した。彼の指針はとても斬新であったため、米国特許事務所は、彼に製造特許を与えて表彰した。


ということで、ここまで読んで、見えてくるのは、グロウ社の栄養食品に対する考え方は、食材に含まれる天然の栄養素こそが優れていて、それに近いものを健康食品として作ることを目指している、というものかと思います。天然から人工に向かうのではなく、人工から天然に向かう方向性ということです。

この単独の栄養素よりも、食物由来の複合栄養素の方が体で活発に作用する(吸収率がよい)という考え方の根拠は、下記のページの記載を見ると、よりわかるかもしれません。
The Original Sun Harmony Chi Machine and Holistic Healing Products
このページによると、先のグロウ社の歴史のところで登場したノーベル生理学医学賞受賞者のセント=ジェルジ・アルベルトに関して、詳しく触れられていますが、彼は、ビタミンC単独の結晶よりも、パプリカ(唐辛子)を潰した抽出物から得られるビタミンCの方が、生理活性が高いことも発見していたとのことです。


上記の化学合成の栄養素と、食品由来の栄養素の吸収率比較に関する学術的なソースがないのかと探してみたところ、いくつか確認ができました。

NUTRIENT AVAILABILITY: - Nutrient Availability Chemical and Biological aspects
アメリカスのクラントン大学化学学部の研究者による「商業サプリメントに見られる微量元素とビタミンの相対生体利用効率」というタイトルの論文です。

英語で読むのがしんどいと思うので、ざっくり内容をまとめておきますと、ビタミンサプリには商業的には2種類あって、化学合成のものと、化学合成ビタミンに、タンパク質、炭水化物、脂質等の天然素材を混ぜた上で、酵母や植物抽出物と反応させた天然形態のものがあることを説明した上で、人やラットなどで、血液中や肝臓中の生体での各ビタミンの利用率を比較したという内容です。

結論として、葉酸に関係するところだけ記載しておくと、ラットでの実験結果ですが、血液中の葉酸の利用効率は、天然のものが合成のものより7%上回っており、肝臓での利用効率は113%上回っているという結果でした。

Vinson, J.A., Nutrient Availability, Chemical and Biological Aspects, Royal Soc. Chem.,1989. pp125 - 127
英国王立化学会(The Royal Society of Chemistry)が発行している出版物の一部で、論文タイトルは「人体における亜鉛の生体利用効率の比較」。

ミネラルの生体利用効率を測るやり方は2種類あって、血中濃度の推移を見る方法と、尿への排出量を見る方法があるのですが、今回の実験では、両方の方法で、硫化亜鉛、グルコン酸亜鉛、そして酵母亜鉛の3種類をそれぞれ同量200mlの水溶液として飲ませて観察をしました。

その結果、血中濃度の総面積は酵母亜鉛が他の形態の亜鉛より1.5倍から1.7倍近く大きくなり、尿への排出量は、酵母亜鉛が他の形態の亜鉛と比較して4割から6割り程度になったとのこと。

血液の濃度推移の総面積が大きい方が、生体でより利用されていることになり、尿への排出が少ないほうが、生体で利用されているということになるので、結論として酵母亜鉛の方が生体利用効率がいいですよ、ということになります。


いずれの論文も「Re-Natured」という言葉を使っていないので、探しにくいのですが、Grow社のRe-Naturedシリーズの栄養素と、合成栄養素を比較したものになっています。他、さらに学術論文を見てみたいという方は、下記にサイトにいろいろ紹介されているので、見てみてもよいかもしれません。
Food State Supplements and Bioavailability - weight loss, healthy, supplements, supplement, ... - Entire Katoa - Food State Dietary Supplements


Re-Naturedシリーズに関するデータも含めた説明が一番詳しいのは、探した限り下記のページです。このGrown By Natureというのはサプリ専門店なので、商業主義の内容になっている可能性もあるため、学術論文である程度裏付けを確認した上で、紹介をしようと考え、この位置に持ってきました。
Grown By Nature presents:Re-Natured® (Food State) Nutrients“The Future- Here Today”Dr. Peter Mansfield
このPDFの内容は、1992年に行われたカンファレンスの内容をまとめたもののようです。講演者のピーター・マンスフィールド博士という方は、PubMedという医学論文サイトで検索した限り、サプリの広告手法等を論じた論文を執筆されていることが多いようなので、科学者というよりはマーケッターという側面の方が強い人なのかもしれません。現在はRe-Natured nutrientsという会社で働いている、というのが彼のプロフィールです。

この資料も葉酸含有酵母とは何かを知るためのソースとしては非常に重要なものであるにも関わらず、英語でがっつり書かれたものしかないので、重要な部分をまとめていこうと思います。

まずは、基礎知識として、化学合成のビタミンのことをUSPとかBPと記事の中で呼んでいますが、これはそれぞれUSP(Pharmacopoeia of the United States of America、アメリカ薬局方)、BP(British Pharmacopoeia、英国薬局方)の略で、つまりそれぞれの国の医薬品の規格基準書のことです。

このUSPやBPの化学合成ビタミンと、葉酸含有酵母などのRe-Natured Nutrientsの比較をしているというのが記事の主旨です。

合成ビタミンと天然ビタミンの違いについて端的に説明している図はこれ。左側の食物の含まれる天然ビタミンは、ビタミン単独のものではなく、炭水化物やタンパク質、脂質等を含んだ複合体の分子になっている一方、化学合成のビタミンは、それらを変性(De-Natured)させた単独分子のビタミンになっているという説明です。


次の図は合成ビタミン(USP/BP Nutrients)と天然型ビタミン(Re-Natured Nutrients)の体内での作用の仕方の違いについてを説明しています。ここで出てくる専門用語はECF(Extracellular fluid、細胞外液)と、ICF(Intracellular fluid、細胞内液)、そしてSF(Secreted fluid、体液)の3つです。
この部分では何を言っているのかというと、合成ビタミンは細胞の外側にあるECFのところまでは入り込むけど、細胞内のICFやその中のSFの部分までは浸透しにくいのに対して、天然型ビタミン(Re-Natured Nutrients)については、細胞内のICFまで浸透しやすいので、より作用を発揮できるということです。

今までRe-Naturedと呼んでいた栄養素の定義がここでようやく明確になります。葉酸サプリのサイトなどでは天然型葉酸とか葉酸含有酵母などと呼ばれているものの定義は、この図にあるとおり、「元々は化学合成ビタミンだったものを天然ビタミンに近い状態に戻す」ということを行ったもののことを指しているのです。だから、自然に戻す、という意味でのRe-Naturedとなるわけです。

なお、この天然型ビタミンにするプロセスはGrow社の特許となっているようです。ここで、ビタミン以外の酵母や炭水化物、タンパク質、脂質等を適切な割合で混ぜて、合成ビタミンから天然型ビタミンへと育てている、ということかと思われます。

次の図は、天然の食物と、天然型栄養素、合成栄養素の吸収率比較グラフです。どの栄養素における比較グラフなのかを記載していないので、かなり大雑把なものですが、化学合成栄養素の吸収率は低く、食べ物による栄養素の吸収率が一番高いということをここで言っていて、天然型栄養素(Re-Natured)は天然の食べ物に次ぐ吸収率を誇っていると記載をしています。

次の図は、英国王立化学会(The Royal Society of Chemistry)による、合成ビタミン(Synthetic Vitamins)と天然型ビタミン(Re-natured Vitamins)の体内利用率の比較研究の結果に関するグラフです。元の文章ではいくつかグラフがあるのですが、ここでは葉酸が属しているビタミンに関するグラフに絞ってご紹介します。
わかりやすく赤く囲んだ部分が葉酸の生体利用率比較の項目で、青い棒グラフが合成ビタミンの生体利用率を100と置いたもの、隣の赤い棒グラフが天然型葉酸(葉酸含有酵母)の生体利用率を対比したものになっています。天然型葉酸(Re-Natured Folic Acid)に関しては、血液中の生体利用率が合成ビタミンの約210%ほどになっていることが、グラフから見て取れます。

最後が下記の比較表です。合成ビタミンと葉酸含有酵母の肝臓貯蔵量の比較データでは、葉酸含有酵母が2.13倍残っていたというデータです。


以上、この記事のまとめとしては、
・Re-Naturedシリーズは、化学合成の栄養素から独自の特許技術で自然の栄養素に近い形態の栄養素に変化させたもの
・葉酸含有酵母は、合成葉酸をベースに、酵母を用いて天然葉酸に近い複合的な分子構造にしたもの
・葉酸含有酵母の方が合成葉酸よりも吸収率が2倍以上よいことが、研究データで確認されている

ということになります。葉酸含有酵母に関しては、ここまでかなり調べた結果、それなりにエビデンス(医学的な証拠)はありそうだ、ということがわかりましたが、焦点として、そもそも葉酸が赤ちゃんの先天異常のリスクを下げる効果がある、という研究は、いわゆる合成葉酸を使って行われているものです。1日400μgの摂取という量的根拠も、合成葉酸をベースに行われているわけです。

なので、あくまでも赤ちゃんの先天異常のリスクを下げている、という研究データが合成葉酸をベースに確認されているという点や、厚生労働省の推奨しているものをベースに考慮をするのであれば、合成葉酸を摂取するのがよいでしょう。

ただ、今回ご紹介した資料等で、葉酸含有酵母なるものの体内吸収率が、合成葉酸よりも優れているという結果も出ておりましたので、これらの資料や研究結果の方に、より重きを置いて判断するなら、葉酸含有酵母を使った葉酸サプリを摂取するという選択にもなりうるかと思います。


なお、念のため、葉酸サプリの有名どころで、葉酸含有酵母を使用しているベルタ社にも、葉酸含有酵母について問い合わせてみました。

回答としては、「モノグルタミン酸型葉酸を酵母で培養した天然型酵母葉酸を使用している」とのことで、あくまでこの葉酸含有酵母というのは、元々化学合成のモノグルタミン酸型の葉酸だったものを、酵母を使用して、形を変えている、という理解でよさそうです。

Grow社のRe-Naturedシリーズの考え方は、合成ビタミンを、酵母等を使用した独自のノウハウによって、天然のビタミンの形に近づけていく、というものなので、葉酸含有酵母が、モノグルタミン酸型の葉酸なのか、この回答だけでは疑問が残るところでありますが、ベルタ社の公式回答としては、「製造、出荷の際に成分について全て審査して、モノグルタミン酸の葉酸であると証明されている」とのことでした。

また、なぜ合成葉酸ではなく、葉酸含有酵母を使うのか、という質問には、「モノグルタミン酸型(合成葉酸)を生きた酵母で醗酵培養させることで、体内でより効率よく摂取することができるから」とのことでした。

回答いただいた答えが、大方、海外の文献に記載されていた内容と一致しているので、この葉酸含有酵母が、本当にモノグルタミン酸型なのかは、イマイチ疑問は残るところではあるのですが、吸収性が高いものであるという理解で問題はなさそうです。


以上、葉酸含有酵母について、調べられるだけのことは調べてみましたので、ご参考にしていただければと思います。