葉酸不足で胎児に起きる病気の神経管閉鎖障害とは?

神経管閉鎖障害というのは中枢神経系の障害です。このページでは神経管閉鎖障害とは何なのか、ということについて1から説明を試みようと思います。


まず神経にはたくさんの神経細胞が集まった中枢神経と、全身に分散している末端神経の2種類があります。中枢神経は人の場合、脳と、背骨の中にある脊髄(せきずい)の2箇所になります。

妊娠から4~5週の胎児の状態のときは、これら中枢神経系はまだできておらず、その前身である神経管というものが形成された状態なのですが、この神経管に異常が起きるのが、神経管閉鎖障害です。

神経管閉鎖障害には2種類あります。神経管の上部、すなわち後に脳になる部分で閉鎖障害が起きると無脳症となり、神経管の下部、すなわち後に脊髄になる部分で閉鎖障害が起きると、二分脊椎症になります。

ちょっと日本語の文献では、閉鎖障害とは何なのか、無脳症や二分脊椎症とは具体的にどういうものなのかを突っ込んでわかりやすく説明しているものがないようなので、英文サイトなどを参考にしながら説明しようと思います。

神経管形成の流れと神経管閉鎖について

いろいろ探した結果、神経胚形成(Neurulation、神経板が現れてから神経管を形成するまでの胚のこと。詳細は後述)の推移をアニメーション化した動画でわかりやすいものがあったので、それをベースにして、神経管形成の流れと、神経管閉鎖について説明をしようと思います。元動画は英語ですが、この記事で神経管閉鎖障害を理解するのに必要な解説を付けますのでご心配なく。



まずは妊娠後18日目の画像から。左は神経胚を上から見た図で、右は神経胚の断面図です。この時点ではまだ神経管はなく、神経板(Neural Plate)という板状のものになっています。でも断面図を見ると、なんだか中央がくぼんでいるのが見えますね。


妊娠後20日目の画像がこちら。先ほどは少し中央にくぼみがあるだけの神経板でしたが、それが成長して神経溝(Neural Groove)になっているのがわかります。勘の良い方なら、ここから先どうなっていくか、予想が付くかと思います。ちなみに左の画像は上側が頭部(Cephalic)になる方で、下側が尾っぽ(Caldal)、つまり脊椎になる方です。


妊娠後22日目。先程は神経溝となっていた左右の上部が完全にくっついて、神経管になりました。この、板から溝に、溝から管になっていく過程で、くぼみの左右の先がくっつくことを「神経管の閉鎖」といいます。でもこの左の図を見て気付かれたと思いますが、まだ神経管の上部と下部は完全にくっついていませんね。神経管は、最初に左の図で言うと中央の部分が閉鎖されて、そこから段々ジッパーのように上方向と下方向に閉鎖される領域が増えていくという流れになっています。


妊娠後25日目。神経管上部が完全に閉鎖しました。左側は今まで同様、神経胚を上部から見た図ですが、右側はそれを横から見た図に変わりました。前脳(Forebrain)、中脳(Midbrain)、後脳(Hindbrain)の3つの場所が形成されていることが、横から見た右の図によってわかります。


そして妊娠後27日目。神経管の下部が完全にくっついたことで、両端の神経管が完全に閉鎖されました。以上が神経胚形成の流れで、神経板が神経溝になり、それが神経管となって溝だった両端が完全に閉鎖されるまでの流れです。


神経管閉鎖障害の2種類:無脳症と二分脊椎症とは?

神経管閉鎖の流れがわかると、神経管閉鎖障害とは何なのかが容易に理解できるようになります。神経溝だったものが神経管に閉じる過程で、最初は左の図の中央部から閉じ、最後に上部と下部が閉鎖されましたが、後に頭の部分になる上部がうまく閉じないと無脳症に、後に脊髄となる下部がうまく閉じないと二分脊椎症になります。動画にその説明もあるので見ていきましょう。


まずは無脳症(Anencephaly)から。神経管の上部(頭部)が完全に閉鎖されないことで胎児に起きる障害です。右の図のように、頭が完全に生成されないことで、致命的な先天性奇形となって大半は流産や死産となり、もし出産できても数日以内に死亡するケースが多いです。

次に二分脊椎症(Spina Bifida)について。こちらは神経管の下部(尾部)が完全に閉鎖されないことで赤ちゃんに起きる先天性障害です。いくつかパターンがあるのですが、中枢神経が集まる脊髄の神経が背中から漏れてしまうことで、こちらも重大な障害となります。

二分脊椎症になるとどうなるか、わかりやすい(けど生々しくはない)画像を探すとこんな感じになります。一番右の図が正常な脊椎(Normal Spine、せきつい、つまり背骨)で、脊髄がしっかり背骨の中にしまわれているのがわかります。一方真ん中の図の二分脊椎症の脊椎の状態は、神経管が完全に閉鎖されなかった影響で、背骨から脊髄が飛び出してしまっていることがわかります。それによって、赤ちゃんの背中の部分がポコッと膨らんでしまっていることが、左の図からわかります。

神経がたくさん集まった中枢神経が外に飛び出してしまうことで、運動機能に重大な障害がでます。また、内臓系にも障害が出ることがあるのが、二分脊椎症の弊害です。


なぜ葉酸が不足すると神経管閉鎖障害が起きるのか?

ではなぜ葉酸が不足すると神経管閉鎖障害が起きるのかというと、それは葉酸が「細胞が新しく生成されるのを助ける」働きがあるからです。細胞生成に必要な栄養素が不足するということは、そこでエラーが発生するリスクが増えるわけです。大人になってから葉酸が不足しても、それは貧血になったり、腫瘍ができたりといった影響で済みますが、最重要の身体機能が出来上がる胎児のときに細胞生成でエラーが起きると、神経管閉鎖障害のような致命的な影響に繋がるわけです。

そして、もっとも重要な点は、葉酸の摂取によって神経管閉鎖障害のリスクを低減させることができるというのは、気まぐれなテレビ番組や、特定の健康食品会社が言っていることではなく、欧米や中国などの疫学研究によって示されていることであり、日本でも厚生労働省がサプリによる葉酸の追加摂取を推奨している点です。

具体的には1日0.36mg~0.5mgの量を栄養補助食品から摂取することで、神経管閉鎖障害の発症リスクを低減させることができることがわかっており、それを受けて厚生労働省は1日0.4mg(=400μg)以上の葉酸サプリによる葉酸摂取を推奨しています。

サプリでの摂取が推奨されている理由は、葉酸は水溶性ビタミンであり、火や水を使った調理によって失われやすい栄養素だからです。なので、適量を確実に、吸収性が高い形で摂取するために葉酸サプリによる摂取が推奨されているわけです。


なお、ここまで神経管の発達過程をご覧頂いてわかるとおり、葉酸サプリの摂取は妊娠発覚前から行う必要があります。なぜなら先天性異常の多くは妊娠から10週未満の時期に発生しており、特に中枢神経系の障害は妊娠から7週未満に発生することが知られているからです。

つまり、子供を作ると決めた、妊活に入ったタイミングで摂取を始める必要があります。