つわりにビタミンB6が効くという根拠に関して信頼性の高いソースをまとめてみる

このブログは主に葉酸に関する情報をまとめているので、ちょっと本題から外れてしまうのだけど、つわりにビタミンB6が効くというのが本当なのか、それともただの俗説なのか、判断が付かなくて検索をしていたら、なかなか「ちゃんとした記事」に出会えなくて苦労したので、ここにビタミンB6が悪阻に効果がある、というのを確信できる信頼ができるソースをまとめておこうと思います。

日経メディカル:ショウガはつわりを軽くする!医薬品並みの効果--豪大学が臨床試験で確認:MedWave Back Number
ビタミンB6に関する記載自体は少ないが、医薬系の専門誌であることと、米国産婦人科学会(ACOG)が、ビタミンB6を「つわりに対してまず使うべき薬」(第一選択薬)として推奨しており、臨床試験でも効果を実証しているということを記載しており、ソースが明確であることから、信頼のできる記述かと。


石原藤樹のブログ(元六号通り診療所所長のブログ) | So-netブログ:日本では使えない悪阻治療薬の話
おっと、いろいろ検索してたどり着いた記事が、まさかの知っている人(笑)。東京の渋谷区幡ヶ谷の六号通り診療所で所長をやっていた石原藤樹医師によるつわりに関する記事。

日本では使用出来ない妊娠悪阻(つわり)の治療薬がアメリカで30年ぶりに復活した、という話題に関する記事なのですが、ここで重要なのは、日本では承認されていないが、アメリカでは使われているBendectinとDiclegisという薬について。

これらの薬は、ビタミンB6が10mgと、コハク酸ドキシラミンが10mgという眠気の副作用が強い抗ヒスタミン薬を合わせた薬なんですが、ビタミンB6はつわりの吐き気を抑える作用のあることが経験的に知られていて、文献もいくつかあるということが書かれています。

そして、詳細は石原先生の元記事をご確認いただきたいのですが、この薬は最初Bendectinとして大流行し、一旦販売中止になったあと、同成分のDiclegisという薬として再度販売されたことで、つわりには確かに効果があるが、奇形のリスクはない、ということが証明されたということを記載しています。

ちなみに日本ではつわりに対して漢方薬を出すくらいで、特に積極的な対処をしないという問題もあるみたいですね。

で、なんで私がこの記事を取り上げたかというと、日経メディカルで示していたACOGによるつわりの対処に関する記載に、まさにこのビタミンB6とコハク酸ドキシラミンの記述があったからです。

ということで、本題といいますか、一番信頼性の高いソースと判断ができる、米国産婦人科学会(ACOG)のつわりに関するFAQを見てみましょう。元ソースが英語なので、重要部分に関しては訳を付けようと思っています。


The American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG):FAQ126 -- Morning Sickness: Nausea and Vomiting of Pregnancy
obstetricianが産科医でgynecologistが婦人科医なので、つまりACOGとは米国産婦人科学会のことになります。nauseaは吐き気、vomitingは嘔吐ですが、nausea and vomiting of pregnancyで「妊婦の吐き気と嘔吐」、つまりは悪阻のことです。英語の文献を読む際には把握をしておくとよいかと思います。

どうも調べた限り、日本の政府系の公的ソースではビタミンB6が悪阻に効果があるというような記載が全く確認できないので、つわりの対処に積極的ではないのでしょう。一番信頼ができると思われる米国産婦人科学会のFAQの重要部分を、一部下記に訳しておこうと思います。


悪阻になったらどうすれば良くなる?
食習慣とライフスタイルを変えることで症状を軽くできるでしょう。下記の提案のいずれかを試してみてください。
・マルチビタミンを取る
・空腹のまま動くことを避けるため、朝起きてベッドから出る前にトーストかクラッカーを食べる
・定期的に水分を補給する
・嫌いな臭いに近寄らないようにする
・3食大食いするのではなく、こまめに少量の食事をとる
・消化のしやすい低脂肪な食事をとる
・ジンジャーエール、ジンジャーティー、生姜カプセル、生姜飴など生姜で出来たものを取る

悪阻の薬物療法はあるの?
食習慣やライフスタイルを変えても症状が改善しなかったり、重いつわりを感じた場合は、薬物療法が必要かもしれません。他に薬を飲んでいるケースを除外すると、いくつかの薬をつわりに使うことができます。

・ビタミンB6とドキシラミン
ビタミンB6はまず一番初めに試すべき、安全なOTC薬。ドキシラミンはOTCの睡眠薬として使われている薬で、ビタミンB6単独では症状が静まらないときに追加で使われる薬。処方薬ではビタミンB6とドキシラミンの混合薬がある。どちらの薬も、単独で使っても、一緒に使っても妊婦や胎児に対して安全であることが確認されている

・吐き気止め
ビタミンB6とドキシラミンが効かない場合、吐き気止めが処方されることもあります。これらの薬は嘔吐を抑制します。多くの吐き気止めは、妊婦に使っても安全であることが示されています。他の薬だと、飲み合わせの問題や限定的な安全性しかないものもあります。あなたと産科医、あなたのヘルスケアに関わるメンバーでこれらの要因を議論することで、あなたの状況にあった最適な処方を決めることができるでしょう。


ということで、ビタミンB6に関しては、たしかに米国産婦人科学会が第1選択薬として推奨していることがわかります。もう一つ、下記もACOGのガイドラインをベースにした医療系専門サイトの英語記事ですが、ご紹介しておきます。ACOGが妊婦のつわりに関するガイドラインを変更したという内容の記事です。抄訳も記事リンクの後に付けておきます。

Medscape Multispecialty:ACOG Updates Pregnancy Nausea/Vomiting Treatment Guidelines
米国産婦人科学会(ACOG)は、2015年8月19日に、妊婦のつわりに関するガイドラインをオンラインで公表し、「産婦人科」という論文誌の9月号にて、妊婦のつわりに関する診断と対処のレビューを行う。

2004年のガイドラインから刷新された新たなガイドラインの中では、広く知られた治療法の変更について取り扱う。1983年に発売中止となったドキシラミンとビタミンB6の混合薬が再発売され、安全で効果があることが証明されたというものである。ACOGはドキシラミンとビタミンB6の混合薬は、つわりの第1選択薬とするべきだと述べている。

吐き気止めのオンダンセトロンに関しては、患者が飲むのを避けるべき薬のリストに含まれている。いくつかの研究では、妊娠初期にオンダンセトロンを使用することで、先天異常のリスクが高まることを示しているが、他の研究では、そうでないとしているものもあり、このレビューでは胎児に対する絶対的なリスクは低いと結論づけている。他の薬と同様に、リスクと効果はいずれの場合でも考慮すべきである。


ということで、ドキシラミンとビタミンB6の混合薬の発売中止と発売再開の経緯は、石原医師のブログにもあったとおりで、改めて安全性が示されたというのが、今回の米国産婦人科学会のガイドライン変更に関する重要な点かと思います。


以上、結論として、ビタミンB6と生姜に関しては、つわりに効くということが、米国産婦人科学会が、エビデンス(証拠)を踏まえて推奨しているものなので、事実として受け止めてよい情報かと。

なお、アメリカのつわり処方薬Diclegisに関する情報は下記が参考になるかと。
Diclegis - FDA prescribing information, side effects and uses
これによると、石原医師も記載していたとおり、有効成分は、ビタミンB6が10mgと、コハク酸ドキシラミンが10mgで構成されている混合薬で、基本は1日2錠寝る前に飲む薬ですが、症状がひどいときには、朝に1錠、昼に1錠、寝る前に2錠の1日4錠まで服用することが可能とのこと。

つまり1日のビタミンB6(ピリドキシン)摂取の限度は40mgということになります。日本の厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準」でも、ピリドキシン(食事によるビタミンB6摂取ではなく、サプリで摂取する場合のビタミンB6)の耐容上限量は15歳から69歳までの情勢で45mgとなっているので、それ以下に留めておいたほうがよいです。

ちなみにピリドキシンを摂取し過ぎるとどうなるかというと、感覚性ニューロパシーという、末梢神経の感覚が鈍くなったり、しびれが発生したりすることがあるようです。